第2章 · 4 / 5
医食同源の思想
アーユルヴェーダのドーシャ、中医学の気・血・水と四気五味。体質と食材の性質を突き合わせて食事を組み立てる「医食同源」の考え方を、緑茶の処方例とともに解説します。
「医食同源」
食事で健康を育む東洋の智慧
モンスーンアジアの食を語る上で、医食同源の思想の説明は欠かせません。
アーユルヴェーダ、中国伝統医学、チベット医学、ミャオ族の医学など、各文化圏には独自の伝統医学が存在し、それぞれの社会的・環境的背景によりその内容は多様です。
一つ重要な共通点は、 「日々の食事は、そのまま健康維持や治療に繋がる」という思想です。
あなたはあなたの食べたものでできている。
という現代に広く知られるフレーズは、その源流をたどれば、19世紀のフランスの美食家、ブリア=サヴァランが著書『味覚の生理学』で記した「人は食べたものでできている」という思想に行き着きます。
例えば栄養の乏しい甘いお菓子や過度に精製・加工された食品ばかり食べていたら、身体は見た目も中身も偏ってきます。
やがて身体の不調和は精神的な面にもおよび、攻撃的な発言が多くなったり、気分が落ち込みやすくなったりします。
この精神状態は、あなたの本質的な個性というよりも、一時的な食事の影響が強く反映された結果、と捉える考え方です。
このような、人間の状態を食を通してホリスティックに捉え、分析し、より良くしていくうえでの基本思想が「医食同源」です。
この思想をもとに古代からさまざまな伝統医学がなりたってきたわけです。
食事を通じて健康を成就するためには、食事内容を各人に最適なものとする必要があります。
誰かにとって良い食事が、他の誰かにとって良いとは限らないのです。
そこで食事内容を検討するために先ず参照されるのが、各人の体質です。
アーユルヴェーダでは、ドーシャ(生命エネルギー)という観点から、地・水の性質を持つカパ、火の性質を持つピッタ、風・空の性質を持つヴァータの3つに分類します。
人はこのどれか一つか、どれか複数の性質をもつとされています。
中医学では、生命エネルギーや機能活動を司る「気」、全身に栄養を運ぶ「血」、そして血液以外の体液(リンパ液、唾液、汗など)を司り体を潤す「水(しんえき)」の、3つがあり、また「陰陽」があります。
この「気、血、水」のどれが不足しているか、または滞っている か、そして「陰陽」のバランスがどちらに偏っているかを組み合わせて、体質を判断します。
また、食事の構成要素である各種の食材にも、それぞれ固有の性質があります。
これは各体質に対してどのような作用があるのかということを観て決められます。
食材の性質に関する知見は、古代から各地で積み重ねられた実践経験に基づいて形成され、やがて哲学的体系の中に位置づけられることで、体系的な判断軸が構築されてきました。
アーユルヴェーダにおいては、食材を「冷・温・平」や「軽い・重い」、「油性・乾性」などの属性で分類します。
中医学でも同様に、「四気(寒・涼・平・温・熱)」や「五味(酸・苦・甘・辛・鹹)」といった属性で詳細に分類しています。
また、宇宙の基本的構成要素を定めた哲学的フレームワークの中で、各種食材がマッピングされることもあります。
例えば中医学における五行説はあらゆるモノゴトを「木・火・土・金・水」という基本要素の組み合わせとして考えており、各食材の各基本要素のバランスがみられています。
食事の処方例
例えば、中医学において緑茶には、微寒・涼、苦・甘の性質があります。
そこで、 体質的に熱や湿が強いタイプ(気滞、湿熱)に対して緑茶は単体でその効果を活用し、気の流れをスムーズにし、余分な熱を冷ますことができます。
一方で、冷えや虚弱があるタイプ(気虚、陽虚、陰虚)に対して緑茶は、単体ではなく、「微寒・涼」の性質を調整する生姜や陳皮といった「温性」食材を組み合わせた処方により、身体を温め、気を巡らせる働きへと変換することができます。
そしてこの際、五行説における相生・相克の理論も念頭に置かれます。
このように、「緑茶」という一つの素材でも、中医学の理論に基づいて飲み方や組み合わせを変えることで、その人に合わせたオーダーメイドの「処方」が可能になります。
さて、体質を判断して食事内容を決めたら、実際にその食事を用意しなければなりません。
食材の準備と、適切な手続き、つまり「調理」が必要です。
次回は、古代から積み重ねられてきた、食材の性質を活かすための調理の叡智について見ていきましょう。