第5章 · 5 / 5
手揉み茶の精神性
手順のマニュアルをあえて示さないのはなぜか。こんな茶を作りたいというビジョンを持ち、自ら全体を設計する「能動性」が、手揉み製茶を生きた営みにします。
これまで、手揉み製茶における基本的な要素についてお伝えしてきました。
理論、操作の要点、そして必要な道具や体の使い方など、土台となる部分です。
既にお気づきかもしれませんが、具体的な手順マニュアルのようなものはお伝えしておりません。
あくまで、作り手自身が全体を組み立てていくための部品の紹介にとどめてきました。
手揉み製茶は、瞑想や日常のお茶、茶道よりも没入感を得やすいとこれまで述べてきましたが、ここには実は大きな前提があります。
それは、手揉み製茶をする者が能動的な状態にあることです。
こんなお茶を作りたい、作ったお茶を誰かに届けて喜んでもらいたい——そうしたある程度明確なビジョンを作り手が持ったうえで、自ら全体フローをデザインし、部品となる要素をうまく組み合わせる。
これが手揉み製茶の基本的な流れです。
目標がないと、人の魂・気は動いていきません。
気が停滞すると、心身に不調和が現れて、身体の動きは精細を欠きます。
意志と目標が気を動かし、エネルギーが心身を動かす——東洋の古典ではしばしば語られる考え方です。
リラックスした状態を保つことはもちろん大事ですが、それは土台にすぎません。
その上に、自ら新しい道を作って進んでいく、「能動性」が乗ってはじめて、手揉み製茶は生きた営みになります。
高い目標を持った者が、全身全霊で茶葉と向き合って作るのが手揉み茶。
そこには間違いなく作り手の気が宿ります。
手揉み茶の作り手は、受け手のことに思いを馳せながら、思いやりの気持ちを茶葉に込めていきます。
たとえば、雄大な自然の、豊かな風味を、一切損なうことなく届けたい。
現地の空気を吸っているかのような気分に浸ってもらいたい。
そうした具体的な願いが、一つひとつの動作に込められていきます。
作り手の気と、受け手への思いやり。
この二つが重なって一枚の茶葉に宿るからこそ、手揉み茶はそれぞれが唯一無二の、作り手の世界観を映し出すアートとなるのです。
茶功における手揉み製茶は、いわばメッセージを構成し、受け手に届けることです。
文法、語彙などが確立された言語システムの上で、作り手がメッセージを編成し、これを茶葉という媒体に載せて受け手に届ける——そうした営みです。
どのようなメッセージを込めればよいか、すぐには思い浮かばないかもしれません。
そのときは、あなたと受け手の未来の物語を想像してみてください。
双方にとって望ましい未来と、今とをつなぐのが茶葉であり、茶葉に込められたメッセージです。
単なる情報としての文字のメッセージと比べて、茶葉のメッセージは、五感と気を通じて受け手に届くとても強力なツールとなります。
あなたの手揉み茶には、未来を切り開くパワーがあるのです。
これが茶功アカデミーにおいて、手揉み茶を最も有効なツールとして位置付けている根拠です。
ぜひこの手揉み製茶を学び、使いこなして、より良い未来を作っていただけたらと思います。
皆さんの手から生まれる一杯が、誰かの未来を照らす日を楽しみにしています。