茶功アカデミー

第3章 · 2 / 8

茶は養生の妙薬なり

鎌倉時代、栄西が中国から茶種を持ち帰り『喫茶養生記』を著すまで。苦味が「心」に効くという、中医学の五行説にもとづく養生思想を読み解きます。

ところは変わって日本。
鎌倉時代。
禅僧・栄西は、中国の天童山にて得た禅およびお茶・茶文化の学びを日本に持ち帰りました。

この時、お茶の木の種子も持ち帰り、現在の九州北部の脊振山に植えて栽培を始めたといわれています。
栄西以前にも茶は伝わっていましたが、本格的な栽培と普及に成功したのは栄西が最初であり、このために「茶祖」と称されています。

やがて栄西は、自身が得た知識・経験から『喫茶養生記』を著します。
『喫茶養生記』は当時の将軍・源実朝に献上され、高い評価を得ました。
これがきっかけとなり、武家社会を中心に茶が広まる礎となりました。

その内容はというと、陸羽の『茶経』のように網羅的で体系的でありつつも、養生に重点を置いた実用的な書です。
栽培法から淹れ方、また、用法・効能の記載があります。
『喫茶養生記』のうち重要度の高い項目の一つが、お茶の苦味が「心」に効く、というところです。

この「心」とは中医学の表現であり、現代医学の心臓と循環器系に加え、精神活動や意識をも司る「こころ」の側面も持ち合わせています。

中医学の基盤にある五行説において、味覚の「五味」のうち、苦味は、「五臓六腑」のうちの心臓に紐付けられるのです。

栄西の言葉を引用すると、「苦味は是れ心の臓を益す。
心は是れ五臓の王なり」となります。
これは現代風に訳せば、「苦味は『心』の臓を補い、その機能を高める。
『心』は五臓の王(主宰者)なのである」という意味です。
当時のお茶は、その原料の茶葉の製法も、淹れ方も、現代の一般的なお茶と少し異なっていたようです。

製法について、摘んだ茶葉を蒸すところまではおよそ同じようですが、そこから茶葉を搗き、円盤状にまとめてから、遠火の直火で焙り、乾燥させた、といいます。

この「団茶」、と呼ばれる形状は、中国唐・宋時代の文化の影響を色濃く受けています。

お茶の淹れ方については、団茶を薬研で削り粉末状、「挽茶」とし、釜で煮出して飲む方法が主流でした。

こうすると、茶葉の成分が強く抽出され、現代の抹茶よりも強い苦味と渋みが際立ったことでしょう。

その濃厚な苦味と渋味がまさに「修行の一服」であったに違いありません。

この「茶による養生」の思想は、現代におけるマインドフルネスやウェルビーイングの源流として、いまなお私たちに深い示唆を与えてくれます。