茶功アカデミー

第3章 · 6 / 8

お茶の有効成分 後編

旨味の中核にあるテアニンと、苦味をもたらすカフェイン。NMDA受容体への作用や、茶種・摘採期・湯温によって含有量が変わることを見ていきます。

お茶の旨味の中核にあるのがテアニンです。
テアニンはグルタミン酸と構造が類似したアミノ酸の1種で、茶樹(カメリア・シネンシス)に特徴的で、茶の旨味の中核をなす成分です。

グルタミン酸が脳内で最も主要な興奮性の神経伝達物質である一方、テアニンは興奮を抑制する作用をもち、鎮静効果が期待できます。

具体的には、脳内のグルタミン酸受容体の一種であるNMDA受容体に対して部分的な拮抗作用を示します。
これがグルタミン酸の過剰な刺激を和らげることになります。

実は、グルタミン酸が過剰にNMDA受容体を刺激すると、Ca²⁺が過剰流入して神経毒性(興奮毒性)を起こしてしまいます。
テアニンにはこれを防ぐ神経保護作用があるのです。

ではどのようなお茶にテアニンの鎮静効果が期待できるのでしょうか。
例えば煎茶の各アミノ酸の比率は、テアニン→グルタミン酸→アスパラギン酸→その他、となっています。
緑茶のテアニンは L-テアニンの型をとり、特に鎮静効果が期待されています。

また、お茶成分におけるアミノ酸全体の比率は、春の一番茶や若芽の先端部分を多く含むお茶において大きくなる傾向があります。

反対に、夏以降に摘まれた茶葉のお茶、硬化した茶葉のお茶においては比率が小さい傾向があります。

なお、テアニンは紅茶の製造工程(発酵)において、ポリフェノールオキシダーゼなどの酵素によって、紅茶の色や香りを構成する成分へと変換されます。

そのため、完全発酵茶である紅茶の茶葉のテアニン含有量は、緑茶や白茶に比べて大幅に少なくなります。

以上を踏まえて、一番茶時期の上級な緑茶、もしくは軽度の酸化発酵によって作られる白茶には、テアニン効果が期待できる。
ということになります。
お茶を飲んだとき、舌の上にジワーッと広がる苦味はおそらくカフェインによるものです。
同じような感覚はコーヒーを飲むときにもあるかと思います。

カフェインはお茶、コーヒー、カカオ、また、コーラの実など多くの植物に備わる苦味成分です。
植物生理学上は植物が自らを外敵から守るための機能成分です。

これが人間を含む動物にとっては、覚醒・興奮をもたらす生理活性成分となり、このカフェインの効能を根拠としてお茶、コーヒー、カカオなどの嗜好品が成り立ってきたわけです。

お茶においては、陸羽や栄西の言うところの「「心」を補填する作用」にカフェインが大きく寄与していると考えられます。
実際にカフェインの興奮作用は心拍数を高め、血液の循環を改善します。

なお、お茶の複雑な作用はカフェイン単独では説明できず、カテキンなどのポリフェノール類がカフェインの吸収や代謝に何らかの影響を与え、全体として穏やかな覚醒効果をもたらしている可能性も考えられています。

そこで、お茶による覚醒作用にはカフェイン以外にも機能成分が関わっている可能性がある、と気に留めておくとよいでしょう。

ところで、お茶を飲んだときには「静かに覚醒する」「頭は冴えていて、身体は落ち着いている」という感覚があります。
これは一般的に、鎮静効果のあるテアニンと覚醒・興奮のカフェインのバランスによるものと考えられています。

個人差は大きいものの、就寝前に適量のお茶を飲んでも睡眠の質が低下しない、あるいはリラックス効果を感じるという報告もあります。
これは、テアニンの鎮静作用がカフェインの刺激作用と拮抗し、全体として穏やかな作用をもたらすためと考えられています。

とはいえ、体験には個人差があります。
近年の研究では、体質的にカフェイン代謝が苦手な人、得意な人というのが遺伝子レベルで明らかになってきています。

カフェインがキツイな、と感じたら低カフェインのお茶を選ぶか、一時的にお茶を飲むのをやめてみるのも選択肢となります。

では、低カフェインのお茶はどのようなお茶でしょうか。
まず基本的には、どの種類のお茶にもカフェインは含まれます。
緑茶・白茶・烏龍茶・プアール茶・紅茶、また、ほうじ茶、微生物発酵のお茶にもカフェインがあります。

茶葉に元々含まれるカフェインは、ほとんどの加工や経年変化に対して非常に安定しており、お茶の種類や熟成年数によらず、茶葉における含量は大きくは変化しません。

他方、成熟した茶葉が主体のお茶は低カフェインの傾向があります。
旨み・甘みを多く含む若芽ではなく、カフェインとは異なる独特の苦味、滋味が特徴的な硬い葉を使ったお茶で、「晩茶」「番茶」と称されるお茶によく見られます。

また、お茶を淹れる時の工夫でお茶のカフェインを低減することができます。
茶葉のカフェインは80度以上のお湯でよく抽出されますがこれ以下の場合抽出されづらく、結果としてお茶の成分組成におけるカフェイン比率が低くなる、という具合です。

テアニン・カフェインはよく知られたお茶の成分ですが、実はこのように、お茶の種類や淹れ方によって含有量が変わってくる、ということを覚えておきましょう。