茶功アカデミー

倍音を求めて

古樹のお茶って、何が特徴なんですか。何が良いんですか。
お茶の話題でよく出てくる質問の一つです。
その場では「自然な甘みとコクの奥行き」というように答えていますが、ここでは「それは倍音です」とお伝えしたいと思います。

倍音とは、声や音の中で、基になる音の背後に重なって鳴っている、比較的小さな、より高い音のことです。多くは基の音の整数倍の周波数を持ちます。お寺の大きな鐘がゴーンと響くとき、耳を澄ませてみると、キーンという音が含まれていることが分かります。鐘の場合、この高い音は整数倍からわずかに外れていて、それがあの余韻の陰りを作っています。

一般に、倍音は心地よいものとされています。複数の周波数が折り重なった複合的な音が、心身を落ち着かせると考えられているのです。例えば、歌手でいうと美空ひばりの声。尺八奏者の中村明一は、整数次と非整数次の倍音をともに群を抜いて多く持つ声として挙げています。楽器では、尺八、琵琶、チェンバロが代表的。環境音では海の音、いわゆる「潮騒」、雨音、また鳥や虫の鳴き声です。

こうして並べてみると、倍音を発する主体というのは、自然なもの、オーガニックな機構を持つものと見做すことができそうです。
私は、オーガニックなものからは倍音的な何かが発せられていると考えています。実際の倍音ではないにしろ、何らかの成分要素が複雑に織り混ざった、有機体の波があると思うのです。その一つが古樹茶です。

お茶が音を発するということは、もちろん科学的には認められていません。一方で、私の周囲の人間からは、お茶の音を感じるという表現がしばしば聞かれます。
実際の音でなくても、お茶の何かが身体に響く。脳に響く。私は、特に古樹茶には倍音的な成分が豊かに含まれていると感じるのです。

古樹茶の実態は、亜熱帯の山の森に半ば自生する、樹齢100年以上の茶樹。その葉から作られたお茶です。樹齢500年、1000年と言われる木も存在します。
一方で、日本の茶園は約4割が樹齢30年以上で、「老園化」と呼ばれています。茶の経済樹齢はおよそ30年とされ、それを過ぎると収量と旨味が落ちるためです。
ただ、単に樹齢が違うというだけではありません。重要なのは、地に張る根の深さと広さ、そして根に結びつく菌根菌をはじめとする微生物叢の厚みと複雑さです。いわば、その茶樹にとっての土地の歴史です。
この歴史が春になると葉に返され、ふくよかさ、コク、奥行きをもたらすのです。

成分で見ると、古樹茶には糖類が多い傾向が報告されています。またこれは憶測ですが、葉の微生物叢の複雑さと量も比較的大きい。微生物は、生育中も、お茶が作られた後も、味わいに影響することがあります。つまり、葉に宿された土地の歴史という土台と、それをもとに味わいを表現する担い手としての微生物、そしてその表現型としての古樹茶。そういう構図が成り立つと想像するわけです。

まだ古樹茶を飲んだことがなく、お茶の「倍音」を知らなければ、一度お試しください。
脳に響く古樹茶の倍音は、日本の原風景を再生しているかのようです。